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土佐 信道氏(TSUKUCOMM Vol.53)

土佐さんの写真

不可解なイメージをナンセンスマシーンで表現する

アート?ユニット「明和電機」代表取締役社長 土佐 信道氏


-明和電機の活動について教えてください

 ナンセンスマシーンという、芸術的なパッションと機械という理性の両方を兼ね備えたユニークな道具を作るアートユニットです。自分が使って見せないと、その道具が何なのかが分からないので、ライブパフォーマンスという形で作品を発表しています。デモンストレーションのしやすい楽器のような作品が多いと思われがちですが、コンセプチュアルなものと半々ぐらいで制作しています。キュート&メカニカル、見た目の可愛らしさと技術的な面白さが、明和電機の持ち味です。
 アートから機械工作、ライブコンサートまで、さまざまな活動をしています。なんでもやってしまうと、かつては器用貧乏と言われたりもしましたが、幸いなことにマルチメディアの時代になって、できることは全部生かせるようになりました。「明和電機」はそれらを入れておく箱のようなものです。この箱があるおかげで、活動の幅をいくらでも広げられます。我ながら大きな発明ですね。



-ナンセンスマシーンはどうやって生まれたのですか

修士発表の様子
修士発表の様子。明和電機以前。
なぜかタキシードを着ている。

 筑波大の芸術専攻には工場みたいなところがあるんです。フライスや旋盤などの工作機械が並んでいて、そこに入り浸っていろんな加工方法や設計を学びました。それが大きかったですね。ナンセンスマシーンのアイデアは、漠然とは持っていましたけど、それを具体的な形にすることができるようになったわけです。
 電子工作は小学生ぐらいからやっていましたが、姉が通信技術に詳しくて、なんとなく教わっていた程度で、特に興味はありませんでした。電子回路って中で何が起こっているかわからないでしょ。それが苦手で。学生時代に、今で言うメディアアート、電子回路を使ったアートが登場して、それに影響されました。絵筆という感情的な表現ツールに、機械というとても理性的なツールが加わりました。
 ときどき頭の中に浮かぶ不可解なイメージがあります。自分と世界とのずれ、違和感みたいなものがビジュアルとして現れるんです。それが作品制作の動機です。そういったイメージの源の多くは、生物や生命です。生物の仕組みとか振る舞いって、分からないことだらけだけど芸術的で、それこそナンセンスマシーンですよね。



-卒業後の進路として「アーティスト」を選ぶことに不安はありませんでしたか

 小さい頃から絵描きになりたくて、自分で芸術作品を作って売る、というシンプルな生き方を志向していました。就職する気はさらさらなかったですね。学生時代は、どうしたら芸術家として生きていけるかを考えていました。今ならネットを使っていろいろなプロモーションができますが、当時は、そういうものはなかったですから。
 アーティストとして独立するきっかけになったのが、ソニー?ミュージックエンタテインメントが主催していたアートアーティストオーディションです。当時はマルチメディア時代の始まりの頃でしたから、ただの芸術家で応募してもうまくいかないと思って、インチキベンチャーみたいなものとして、兄と二人で明和電機を立ち上げたんです。自分で自分に就職したということですね。
 明和電機というのは、子供の頃、実家でやっていた電子部品を作る会社です。倒産してしまったのですが、昭和の経済成長期を思わせるようなダサカッコ良さを狙って復活させました。それが良かったのか、グランプリをとってデビューしました。



-将来の野望はありますか

 究極のおもちゃを作りたいですね。おもちゃというのは、人にあげたくない、自分が遊びたいものということです。それが何かはまだ分かりませんが、とにかく徹底的に考えて、自分が面白いと思えるものは、絶対に他の人も面白いという自信があります。馬鹿馬鹿しいものをできるだけ精度良く、真剣に追求していきたいですし、ナンセンスマシーンのような表現が、どのくらい普遍的なのかを検証したいという欲求も強いです。
 10年後に自分がどうなっているか、ビジネスマンならそういうビジョンがなくてはなりませんが、アーティストはとにかく変化し続けることが重要です。10年後には、なにかとんでもないものになっていたい、と思います。世の中の流れや変化に応じて柔軟に変わっていきたいんです。変化するというのは、ボールの上でぐらぐらしながら立っているようなもので、じっと動かないでいたら転んでしまいますよね。



-最後に、後輩へのメッセージを

 初めてつくばに来た時、自分が生まれ育った瀬戸内の風景とはあまりに違っていて、月面基地に来たみたいな孤独感がありました。でも結果的にはそれが自分には合っていました。学生時代は自分に向き合える時間がたっぷりあって、自分の内面を見つめて、自分の芸術を作り上げることができました。今はネットで調べればすぐに答えがわかるし、失敗しないためのハウツーもたくさんありますが、それで安心してしまってはいけないと思います。東京に比べればつくばにはまだ孤独が残っていますから、それを利用して自分とは何かをじっくり考えてほしいです。



土佐さんの写真

PROFILE  とさ のぶみち

1967年 兵庫県生まれ
1991年 365体育投注芸術専門学群卒
1992年 365体育投注芸術研究科修了
1993年 兄正道とともに明和電機としてソニー?ミュージックエンタテインメントからデビュー。
青い作業服を着用し作品を「製品」、ライブを「製品デモンストレーション」と呼ぶなど、日本の高度経済成長を支えた中小企業のスタイルで、様々なナンセンスマシーンを開発しライブや展覧会など、国内のみならず広く海外でも発表。
2009年に発売した音符の形の電子楽器「オタマトーン」は、累計売り上げ数100万本の大ヒット商品。(2021年8月時点)
2023年はデビュー30周年を迎える。


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