脳のミクログリアの性質を制御するメカニズムを発見
マウスを使った実験で、脳の形成時に神経細胞の核から生じた小さな断片(微小核)が細胞外に放出されることを発見しました。また、この微小核を脳細胞の一種であるミクログリアが取り込むことにより、自身の遺伝子発現パターンを変化させ、細胞の性質を変えていることも分かりました。
ヒトをはじめとした哺乳動物の脳には、神経細胞の他にミクログリアと呼ばれる細胞が存在しています。ミクログリアは中枢神経系における免疫担当細胞として知られていますが、他にも神経発生や神経回路網の構築、さらには脳血管機能の調節など、多彩な機能を持っています。また近年、出生後のミクログリアは均一な細胞ではなく、脳内の周辺環境に依存して異なる遺伝子発現パターンを示す不均一な細胞集団であることも明らかとなってきました。しかし、ミクログリアがどのようなメカニズムで新しい機能を獲得し、性質を変化させていくか、詳細なメカニズムは解明されていませんでした。
本研究では、胎生期のマウスの脳を詳細に観察しました。その結果、神経細胞が所定の位置まで移動し、脳を構築していく過程で「微小核」と呼ばれる小さな核断片が産生され、細胞外に放出されることを発見しました。また、神経細胞の周辺に存在しているミクログリアがその微小核を取り込み、DNAウイルスに感染した際に活性化するシステムを利用して、細胞の形態を変化させることを見いだしました。さらには、微小核の取り込みによってミクログリアの遺伝子発現が変化し、細胞間の隙間を満たす物質(細胞外マトリックス)の産生に関係する遺伝子などの発現が増えることも発見しました。これらの結果は、神経細胞外に放出された微小核が、ミクログリアの性質を変容させる新しいメディエーター(仲介役)として機能することを示しています。
新生仔期のミクログリアは、成体期に比べて不均一性が特に高く、脳血管や脳を包み込む髄膜の機能制御にも関わると考えられています。本研究成果をさらに検証することで、髄膜や血管など脳の境界領域の構造や機能の理解につながることが期待されます。
PDF資料
プレスリリース研究代表者
365体育投注生命環境系鶴田 文憲 助教
掲載論文
- 【題名】
-
Propagation of neuronal micronuclei regulates microglial characteristics
(神経細胞の微小核伝播はミクログリア特性を制御する) - 【掲載誌】
- Nature Neuroscience
- 【DOI】
- 10.1038/s41593-024-01863-5