医療?健康
ビタミンB1誘導体には覚醒を誘導する効果がある

チアミン(ビタミンB1)の分子構造の一部を変化させ、体内に吸収されやすくしたチアミン誘導体は活動意欲向上剤として知られています。ラットにこの誘導体を投与し、その前後の脳波を測定して睡眠覚醒への影響を検証しました。その結果、チアミン誘導体は覚醒を誘導することが明らかとなりました。
江戸時代から明治時代にかけて猛威をふるった脚気は、チアミン(ビタミンB1)不足によって発症するチアミン欠乏症の一つです。NHKの大河ドラマ「べらぼう」の主人公、蔦屋重三郎もわずらったとされます。そのような欠乏症の治療に大きく貢献したのが1950年代に開発された栄養剤のチアミン誘導体でした。エネルギー代謝を円滑にする補酵素としての働きを持つことから、欠乏症がほぼなくなった現代社会においても、日々の活力を高める栄養剤として多くの人々に親しまれています。近年は、チアミン誘導体の新たな利用法として、脳への作用に関する研究も進んでいます。
本研究チームはこれまで、チアミン誘導体の一種であるチアミンテトラヒドロフルフリルジスルフィド(TTFD)がラットの前頭前皮質でドーパミン放出を増加させること、それに伴って身体活動量も増える効果を見いだしてきました。ドーパミン放出の増加には、腹側被蓋野や青斑核など覚醒を司る脳内神経系の活性化が重要です。このため、本研究チームは、TTFDを摂取すると覚醒状態が誘導されるとの仮説を立てました。
この仮説を検証するため、本研究ではラットの腹腔にTTFDを投与する実験を行いました。脳波と筋電図の測定から、TTFD投与の前後で睡眠覚醒状態と身体活動量がどのように変化するかを評価した結果、TTFDの投与は身体活動量と覚醒時間を共に増加させることが分かりました。
今後、この効果の脳内神経基盤を探ることで、TTFDの活力向上効果の有用性が明らかになることが期待されます。
PDF資料
プレスリリース研究代表者
365体育投注サイバニクス研究センター征矢 英昭 客員教授
掲載論文
- 【題名】
-
Promoting arousal associated with physical activity with the vitamin B1 derivative TTFD
(ビタミンB1誘導体TTFDによる身体活動と覚醒の促進効果) - 【掲載誌】
- The Journal of Physiological Sciences
- 【DOI】
- 10.1016/j.jphyss.2024.100001